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ITALY NEWS
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2010/4/30 




ヴィットリオ・ヴォルピ

第15回 老いていく二つの国、イタリアと日本

とうとう春になりました、今年は例年よりは短そうですが。まったく世界は驚きに事欠きませんね。世の中のことは何でもわかっているように思っていますが、実際のところアイスランド火山爆発で世界中が麻痺させることなど誰が想像したでしょう。幸いなことに人は自然の原理を管理することはできず、常に自然に支配され続けています。

◆◆◆

私は日本から戻ったばかりです。京都と奈良で数日を過ごすという特権を得て、その後、もちろん東京にしばらく滞在し、幸運なことに日本で最も美しくそして最も「魅惑的」な時期、すなわち、桜の満開時を楽しむことができました。なにもかも美しく、比較できないほど美しかったのですが、残念なことに、あまりにも大勢の人が動き回っていたため桜の風景が与えてくれるはずの静寂や瞑想のひとときを心底味わうことはできませんでした。今年は日本に来ている観光客の多くは中国人でした。イントネーションの好ましい標準中国語ではない様々な方言を話しているのを耳にしましたので中国各地から来ているようです。日本にとって新しいトレンドの文化ツーリズムとなるでしょう。第二次大戦後にはまだ第三世界であり開発途上国であったこれらの国々に「富」が急速に訪れているからです。

今回の日本滞在で私は素晴らしいものを沢山見ることできましたが、私が最も気に入ったのはほとんど知られていない小さな寺で、大勢の人が訪れることのない場所です。特に、光明寺と呼ばれる苔と石でできた小さなお寺。誰にも煩わされずに一人で座って庭を鑑賞することの出来る大変素晴らしいお寺です。私は日本好きの友人達に次回の日本旅行で是非この寺を訪れるよう推薦しました。今回の日本滞在で、いつもと同様に穏やかで秩序ある日本を発見しました。

同時に、豊かさで最高レベルに達した国が、それを今後も維持することができるか不安を感じていることにも気づかされました。日本の人口統計学や高齢化の中でこの「豊かさ」を維持することができるかどうか。これらの現象は将来に対し肯定的な答えを与えるものではありません。日本にはポジティブな面が沢山ありそのことは誰もが知っています。労働を大切にする文化、社会秩序、高学歴、科学技術や資本の蓄積、グローバル級大企業の存在。とはいえ、別の視点では不安材料も少なくありません:人口減少、急速な高齢化、移民に対する「タブー」、中国や韓国との競合など。「日本製」が独占していた消費者用電子機器分野では、アップルスが力をとり戻し、Ipadが征服し、ゲーム分野で日本企業活躍の余地はわずかです。

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高齢化していく国の典型で、日本では革新よりも保守を望む精神が支配しているようです。最近、ファイナンシャル・タイムズは西欧への日本人留学生の数が激減し、日本人の抜けた部分を中国人や韓国人留学生が丸ごと埋めてしまったことを強調していました。様々な理由で危険な信号です。 第一に「異なるもの」や世界の他の住民と相互に影響しあうことで生じるストレスや困難を避け、自国で安楽な生活を好むことを表しているからです。第二に、危険な自己満足の兆候が顕著な気がします。西欧で学べることは今では何でも日本で学ぶことができるという考え方です。これは文化的側面、すなわち、他との共生や世界のトレンドを自ら理解するといった「ソフト的要素」よりも、「ハード的要素」(データや情報)取得を優先させていることに他なりません。困難な仕事よりも「安楽なこと」を望むことです。戦後の日本人が、国を再建し、最高水準にまで高めるために行ってきたこと、そして世界と正面から向き合って来たこととまさに正反対な流れです。

私は日本の現在の政治潮流にはますます幻滅するばかりです。すなわち、大衆迎合主義、衆愚政治であり良識に欠けています。日本の将来の真のリスクについての真剣な議論が欠けています。すなわち、人口の減少、膨大化する医療や年金に公費で対応することが不可能なこと、内需拡大の必要性、輸出依存度の減少など。 日本の友人が「なぜ、もっと消費しないといけないのか。私はもうすでに何でもあるのに」と私にたずねる時、地下鉄に乗って郊外に行って住宅水準がまだ貧しいことを見てくるように薦めます。一人当たり所得水準が日本の何分の一にも満たないマレーシアでさえ、日本よりも住宅水準の高いことを実感してきました。そして付け加えます。「なぜ男性の靴に注意を払わないのですか? イタリアやフランスの男性の靴と比べてみてください。日本の男性の足元はまるで第三世界ではないですか?」

消費、サービスの分野でも、農業や観光に刺激や活性化を与える上でも、実施すべきことは沢山あります。自動車と電子機器の分野以外にも、日本人が行うべきことは沢山あり、多大なチャンスがあります。しかしながら、鳩山首相のマニフェストはこれらの課題に直面せず、日本人にはもっと子供を生むようにと奨励するばかりです。なんという惨めなことでしょう。

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日本にでかける前に、私は数日間シチリアに行き、同島南部のアグリジェントやジェーラなど大変美しい町を再訪しました。我々西欧人の文化が生まれた場所です。ピタゴラスをはじめとするマグナ・グラエキア(イタリア南部の古代ギリシア植民地)の大思索家や哲学者が生きた村です。大変美しくホスピタリティ精神に満ちた場所です。しかし、私は大変悲しい気持ちで戻りました。たとえば、素晴らしいパノラマの崩壊、都市部の乱造建築、あらゆる面での無秩序。住民4万2千人のシャッカの町で見たのは、一度も使用されないまま放置されている広大な新劇場、利用不能で「がらんどう」の病院、イタリア政府のお金で建造され政治家やその友人たちの私腹を肥やすためだけに建設された数え切れない建築物群でした。真の悲劇は、何かを実現したり、変革したり、リスクを負うことを断念することといえましょう。

地元の若い女性に聞いてみました。「あなた方若い人は、なぜ、こういう状況を受け入れ抵抗しないのですか。なぜですか?」と。答えは「おっしゃる通りです。我々の責任です。でも我々はここでまあ居心地はいいし、家から離れる気持ちはありません。そして何か仕事がみつかることを、国家が助けてくれることを待っているのです」と。 私は、ケネディ大統領が市民に呼びかけた有名な演説でこの女性に答えました。「祖国があなたに何をしてくれるかを尋ねてはなりません、あなたが祖国のために何をできるか考えて欲しい」。残念ながら、ケネディの言葉はシチリアにまでは届いていなかったようです。

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要は、幾つかの理由で私は日本とこの美しきシチリアとの間に大きな類似点があるように思えます。若い世代が「正しい価値観」を選ぶように、そして他者のため地域共同体のために何かをするように奨励し、安楽で無気力な生活を拒否するように若い世代を助ける必要があります。賭けの勝敗は、この地球の将来にかかっており、今こそ、これからのグローバル化を前に、3つの大きな挑戦で立ち向かうことが必要なのです。

1. 限られたリソースへの挑戦:どのような開発モデルを推進すべきであるのか。
2. 世界における貧富の格差・不公平拡大:不遇な人に対し何もできないというモラルに欠けた世界に直面しています。世界では6秒に一人の割合で赤ん坊が飢えのために死亡しています。
3. 異なる文化にどのように対応していくのか:グローバル世界の中で我々は互をよりよく理解しあう必要があり、それぞれの差異を尊重しなければならないのです。

これら三つの大きな課題があるにもかかわらず、イタリアも日本も無気力な状態に陥り、我々市民も安楽な生活を好んで毎日暮らしているのです。 

(翻訳:JIBO 編集部)



◆執筆者プロフィール
ヴィットリオ・ヴォルピ Vittorio Volpi
Chairman Parallels Consulting

ミラノカトリック大学経済・商学部卒業。その後、世界的に事業展開する大手銀行数社に勤務し、日本滞在歴は30年に及ぶ。日本滞在中は日刊全国紙「コリエレ・デッラ・セーラ」に日本の政治、社会、経済についての多くの記事を寄稿した。
世界有数の規模をもつ金融グループUBSに勤務し、UBSイタリアをChairmanとして統括した後、2008年4月Parallels Consulting SAをルガーノに創立しChairmanとなる。一方でイタリア有数の日本研究家という顔も持つ。
主な著書に「日本よ敵か見方か − イタリア人の見たニッポン」(日本経済評論社)「日本がいま、やるべきこと」(新潮社)、「賢者の営業力」(PHP研究所)などがある。

ヴォルピ氏の最新刊のご紹介
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